1.石炭灰および大気エアロゾルのδ^<11>B測定に関する基礎的検討 試料中の全Bの同位体比を測定する場合には、試料分解や大量に存在する主要成分からの分離において非常に煩雑な操作が必要になる。本研究ではそれらの同位体比測定を簡便にするため、水溶性Bを対象にした。水による各種溶出法((1)30分間超音波照射、(2)室温にて6時間振とう、(3)約100℃にて1時間加熱)について検討した結果、(1)30分間超音波照射による方法がBを効率的に溶出できることがわかった。また、δ^<11>BはBをイオン交換樹脂(Amberlite IRA-743)で分離・濃縮した後、四重極型ICP質量分析装置(ICP-MS)で測定した。ICP-MSによるδ^<11>Bの測定条件を最適化することにより、本研究を実施する上で十分な約2‰(n=6)の精度(RSD)での測定が可能となった。 2.石炭灰のδ^<11>Bおよびδ^<34>S測定 中国炭は、北部地域は淡水環境、南部地域は海水環境で形成され、後者では硫酸還元で生成した多量の硫化物や有機イオウが石炭中に混入するため、δ^<34>Sが小さくなることが知られている。一方δ^<11>Bでは、石炭が海水環境で形成された場合には海水のδ^<11>B(39.5‰)を反映して大きな値となることが予想される。石炭灰のδ^<11>Bとδ^<34>Sの関係を調べた結果、両者には上記の関係、すなわちδ^<34>Sが低下(海水環境で石炭が形成)するとδ^<11>Bが増加する関係が存在していることがわかった。また、揚子江以北で形成された中国炭のδ^<11>Bとδ^<34>Sは、予想された値を示した。以上より、両同位体比をトレーサーとして利用する中国大陸からわが国への石炭燃焼由来大気汚染物質の越境輸送評価が期待できる。
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