研究概要 |
1.日本海側地点における大気エアロゾルのδ^<11>測定-大気エアロゾル中ホウ素の起源推定 中国大陸の北緯30度以北で産出される石炭は、主として淡水環境で形成されたことを反映して、相対的にδ^<34>Sが高いことが報告されている。また、淡水環境で形成された石炭は海水の影響を受けないため、相対的にδ^<11>Bは低くなることが予想される。そこで、2004年4月から2006年3月に日本海側の2地点(長崎県松浦市と石川県中能登町)で採取された大気エアロゾルのδ^<34>Sおよびδ^<11>Bの季節変化を調べることにより、エアロゾル中のBに対する中国大陸での石炭燃焼の影響を評価した。その結果、両地点におけるエアロゾル中のSO_4^<2->-S濃度は夏季に高く冬季に低くなったが、B濃度は逆に夏季に低く冬季に高くなる季節変化を示した。一方、δ^<34>Sは夏季に低く冬季に高くなったが、δ^<11>Bは逆に夏季に高く冬季に低くなる季節変化が認められた。後方流跡線解析の結果、冬季に両地点に到達するエアマスは、ほぼ全て中国大陸の北緯30度以北を経由したものであった。以上より、冬季における大気エアロゾルのδ^<34>Sの増加とδ^<11>Bの低下は、中国大陸の北緯30度以北での石炭燃焼の影響を強く受けた結果であり、δ^<11>Bはδ^<34>Sとともに石炭燃焼由来エアロゾルの有用なトレーサーとして期待できる。 2.δ^<11>Bに基づく中国大陸からの石炭燃焼由来微量元素の越境汚染評価 長崎県松浦市で採取された大気エアロゾル中の元素濃度(Al,As,B,Cd,Co,Cr,Cu,Hg,Mn,Mo,Ni,Pb,Sb,V,Zn)とδ^<11>Bの測定値を基に、中国大陸からの石炭燃焼由来微量元素の越境汚染の実態を評価した。元素濃度を用いた主成分分析の結果、3つの主成分が抽出され、As、B、Cd、Hg、Pb、Sb、Znの7元素は第1主成分の負荷量(0.73)が高かった。これらの元素濃度はいずれも夏季に低下し、冬季に上昇する季節変化を示した。上記1の結果と併せて、冬季の松浦におけるこれらの微量元素の主要な発生源は、中国大陸での石炭燃焼であることが強く示唆される。
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