森林吸収からのクレジット供給の特徴について分析を行った。クレジット供給は、日本においては、籍林の小規模所有にともなって、小規模分散的に発生することが予想される。一方、後述するように、現実にクレジット供給を試みているのは、県有林・私有林・公社林などの公有林であり、少数中規模型の供紹も想定する必要がある。 くわえて、クレジット需要の特徴について分析を行った。クレジット需要は、主に規制を受ける大規槙企業から発生するとの仮定のもと、どのような状況下で、どのくらいの規模でクレジット需要が発生するかについて検討をおこなった。強い規制が施行されるとの想定のもとでは、アンケート回答企業の74%が、クレジットの購入を実施するとしていた。しかし、他のCO_2削減手段と比較して、吸収クレジットに対する認知度は低いことが明らかになった。 以上の需給に関する発見事実は、クレジット取引制度設計の基礎条件として重要となる。 クレジット取引をマルチ・エージェント・シミュレーション手法にてモデル化し、取引の安定化にどのくらい時間を要するかを観察した。この要する時間は「取引費用」の代替変数とみなすことができる。こうしたモデリングは、将来の取引制度設計に有益な示唆を与えることとなる。取引者のグループ化にグループ間の橋渡し取引を併用することによって、かえって早期に取引の安定化が起こる現象も確認できた。このことは、ローカルなクレジット取引の可能性を示すもので、制度設計のうえで興味深い。 また、現実に進行しつつある、J-VER等の炭素吸収クレジット制度の継続観察も続けた。民間企業の広告宣伝のうえでは森林吸収クレジットがイメージ面での優位性があること、県有林・私有林・公社林なとの公有林からのクレジット供給意欲が強いこと、などが明らかになった。
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