昨年度のMutaマウスを用いた解析から生後2日齢あるいは4日齢でX線を照射すると8週齢で照射した時より突然変異誘発効率が低いことを見出したので、さらに胎仔期ではどうかについて調査した。早い時期の胎仔は放射線感受性が高いことが分かっているので、器官形成期を終了した15.5日齢のマウスに10Gy、20Gyの放射線を母体ごと照射し、その後3日を経た時点で調べるといくつかの胎仔に外脳症、内臓脱出などの奇形がみられたが、多くは体重が少ないものの正常な外形であった。そこでその正常にみえる胎仔から肝臓を摘出し、突然変異頻度を調べた。その結果、変異誘発効率は生後2日齢の値よりさらに低い値を示した。これは照射による遺伝子変異生成効率が胎仔期から成獣になる間に変化していることを示している。この変化の原因としてはいろいろ考えられるが、仮説として放射線によるDNA二重鎖切断を誤りなく修復することが知られている相同組換え修復活性の加齢に伴う変化ではないかと考え、この修復に関与するRad54遺伝子を欠損したマウスを入手し、そこでの突然変異誘発率を解析し始めた。この系では放射線による変異の大多数を占める欠失型変異だけを検出することにより、より少ない量の放射線による変異誘発を検出できるgpt-deltaマウスを使用した。しかしこのマウスのゲノムDNAから変異指標として用いたトランスジーンの回収率が悪く、変異頻度を決めることができなかった。今後はMutaマウスを用いた系に変更する必要があると考えている。
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