研究概要 |
放射線の発癌効果には被曝時についてエイジ依存性のあることが知られているが、その原因は分かっていない。そこでエイジによって放射線による突然変異誘発効率が変わるのではないかという仮説を考えた。昨年度までの解析の結果から胎仔期では放射線誘発突然変異効率が成体でのそれより低いことを見出したが、その原因として胎仔期では誤りの少ない相同組換え修復が活発なためではないかと考えた。それを知る方法として相同組換え修復に関与しているRad54遺伝子を欠損したマウスを入手し、それを1acZをもったMutaマウスと交配しRad54(-/-)・1acZ(+)マウスを作成し、肝臓での放射線誘発突然変異頻度を解析した。用いた線量は10Gy、20Gyである。その結果、胎仔ではRad54欠損の影響は見られなかった。ただし2ヶ月齢マウスでみるとRad54欠損状態では変異誘発頻度が約1/5に低下していた。 胎仔期で影響がないのはRad54遺伝子がその時期に働いていないと考えれば理解できるが、成体での影響については予想外であった。以前に我々が行った非相同末端結合修復の欠損マウス(Ku70欠損)で同じような現象がみられたが(Radiat.Res.,170:216-223(2008))、Rad54欠損で同じような変異抑制がみられるのは不思議である。まだ、Rad54蛋白の細胞内の役割の全てが明らかにされている訳ではないので、解釈は難しいが、今後さらに詳細な解析をする必要があろう。 今回の研究から、胎仔期から新生仔期では放射線による変異生成効率が低いことが明らかとなりDNA修復能が個体のエイジに依存して変化することが分かった。しかし放射線の癌誘発効果のエイジ依存性とは一致せずそれを説明するには不充分であり、他の要因の関与が考えられる。今後の課題である。
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