劣化ウラン弾汚染や我が国での再処理工場の試運転の開始、世界各国のエネルギー情勢の変化で原子力エネルギーが再注目されていることなどを背景に、ウランの生体影響研究の必要性が生じている。ウランは放射線毒性のみならず化学毒性を有するが、ウランの組織局在性と組織障害との関係は十分に理解されておらず、ウランの生体影響評価に資する科学的根拠は乏しい。本研究では、ナノビームを用いた新たなウラン測定手法を確立し、これを用いてウラン蓄積と毒性発現の量-反応関係を細胞レベルで明らかにすることを目的とする。 本年度は、まずラットに酢酸ウランを投与し、投与後2週間までの経日的観察実験群を設定した。腎臓について、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)による組織中ウラン濃度測定条件を検討した。また、TUNEL染色によるアポトーシス誘導部位の同定、およびTUNEL陽性細胞の計数によりアポトーシス誘導の量的変化を調べた。 次に、ウランの細胞選択的測定手法の確立のため、微小ビームを用いた高エネルギー領域のシンクロトロン放射光蛍光X線分析が行える唯一の施設である高輝度光科学研究センターの大型放射光施設(SPring-8)に利用申請した。薄切分析標準を用いて局所定量のための基礎データを取得し、腎臓薄切試料に対するウラン局所手法を確立した。本手法により、ウランは下流部位の近位尿細管に選択的に蓄積し、組織損傷を引き起こすこと、その部位選択的蓄積は腎臓平均ウラン濃度の30倍以上に達することが明らかとなった。
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