研究概要 |
リアルタイム中性子個人被ばく線量計を用いた場合、航空機搭乗員の中性子被ばく線量の計測は、計算評価よりも10倍近い過大計測を行っていた。この原因は、宇宙陽子線によると思われてきたが、高エネルギー中性子による起因の可能性があることが我々の実測から分かってきた。航空機搭乗員の中性子被ばく線量を正しく評価するために、個人線量計に用いられているシリコン素子の特性をシュミレーションと実測から評価することで、この過大評価の原因を解明し、改良することを目指した。これまで高エネルギー陽子によるファンネリング現象により、従来のモデルよりも大きなエネルギー付与が計測されていることを解明した。しかし、このモデルを数MeVの反跳陽子に適用した場合、中性子の応答特性を説明できないことが本研究で実証した。さらなるエネルギー付与のモデルを改善するために、より低い陽子のシリコン中でのエネルギー付与の挙動を当研究所内のサイクロトロンを用いて実験的に評価し、新たな荷電粒子のシリコン中でのエネルギー付与のモデルを構築した。改良したモデルを実証するために、(独)産業技術総合研究所に付設されている国際比較により中性子の絶対量が高精度に評価されている高速中性子ビーム(5,15MeV)を用いて、中性子素子の応答特性を実測した。これまでのモデルでは、反跳陽子のピークエネルギーを再現できなかったが、新たなモデルを用いることで、中性子の高速中性子に対する応答特性を十分に評価できることが分かった。このモデルを高エネルギー領域へ拡張することで、航空機高度での中性子と陽子のエネルギースペクトルから、過大評価の原因を追求できる。これより、中性子と荷電粒子に対する航空機搭乗員の宇宙放射線被ばくを簡便にモニターすることが可能となる。
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