研究概要 |
構築された疫学解析用データベースを精査した結果、対象者毎の居住歴及びそれに付随する情報は、個人毎の被曝線量を計算する上で重要であるが、複数の情報源から個人履歴が構成されているために、矛盾を生じている情報も多々あることが判明した。精度の高い個人被曝線量推定には、この矛盾を解消し正確な履歴情報を得る必要がある。そのため、カザフスタン共和国の住民登録データベースを使用することにした。しかしながら住民登録データベースは現在のカザフスタン国民の情報を元に構築されたもので過去には遡れないが、できるだけ過去の居住歴や職歴を補正する作業を行うこととした。2011年5月に研究協力者であるロシア連邦医学生物庁ブルナシヤン医学生物物理学センター・グラノフスカヤ研究員と線量推定のためのデータについて協議を行った。1949年1月1日から1962年12月31日までの核実験場周辺住民(14,826人)の居住歴・職歴等の情報を疫学解析用データベースから抽出しグラノフスカヤ研究員に提供した。グラノフスカヤ研究員は、このデータを用いて個々の線量推定を開始した。2012年1月にグラノフスカヤ研究員を広島に招聘し、線量推定方式に関して再度打ち合わせを行った。また、広島大学主催の国際シンポジウムで疫学解析用データベースから抽出した被曝者の個人被曝線量推定に関してグラノフスカヤ研究員が発表を行った。2012年3月、グラノフスカヤ研究員が勤務するセンターの責任者シンカレフ博士、武市クリニック院長武市医師、ドイツ連邦放射線防護機関グロシェ博士と解析対象集団について協議を行った。その結果、チェルノブイリ原子力発電所事故の後障害では殆どが甲状腺障害であることから、武市医師が2006年から2011年まで現地で行った甲状腺検診対象者1,300人を新たな解析対象集団とし、疫学解析用データベースと照合を行い1949年からの居住歴、職歴情報を得た上で、対象者の被曝線量推定を行う。これまで行ったがん死亡を対象とした研究結果と合わせ、更に、人体に対する低線量被曝の影響を甲状腺疾患に焦点を絞り、継続して解析することを確認した。当該研究は3年間で今年度が最終年度になることから、研究を継続するにあたり、次年度以降の文部科学省科研費に応募することを関係研究者と協議し同意を得た。
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