研究概要 |
ダイオキシン受容体(Ahレセプター)のリガンド結合によらない、CREMを介した新しい経路による標的遺伝子の転写活性化の初期過程を、分子生物学の手法を用いて明らかにすることが本研究の目的である。 Ahレセプターの標的遺伝子であるCYP1A1の転写開始前には、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)と複合体を形成し、クロマチンのヒストンを脱アセチル化状態にしていることが予想された。そこで、ヒト肝癌細胞HepG2細胞に、ダイオキシン(TCDD)あるいは、リガンド非依存性にAhレセプターを転写因子として活性化するオメプラゾール(OP)による処理を加えてCYP1A1の誘導をかけるときに、HDAC阻害剤を加えた実験を行った。用いたHDAC阻害剤の2つの種類、トリコスタチンA(TSA)または酪酸ナトリウム(NaBut)によって異なる結果が得られた。TCDD処理では、CYP1A1の誘導がTSAでもNaButでも促進されたのに対して、OPによってCYP1A1の誘導をかけた場合には、NaButによるHDACの阻害で転写の誘導発現が促進されなかった。これは、HDAC阻害剤の阻害特異性によるHDAC6,10の阻害効果の違いが、この原因の一つと考えられた。即ち、誘導物質の違い(TCDDかOP)によって、サイレンシング解除に関与しているHDACの種類が異なることを示唆している。
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