研究課題
潰瘍性大腸炎はクローン病と共に難治性の炎症性腸疾患であり、高率に大腸がんを合併する原因不明の慢性炎症疾患である。我が国における潰瘍性大腸炎の患者数は10万人強で、近年急増傾向にあり、その対策が急務とされている。発症機序は不明であるが、腸管粘膜局所の免疫監視機構の破綻により腸内細菌に対する過剰免疫反応が誘導され、その結果局所への炎症細胞の遊走と活性化が持続的に起こることで組織破壊に至ると考えられている。本研究では、強力な酸化ストレス作用を有するトリブチル錫が潰瘍性大腸炎の発症・増悪、さらに炎症に起因する大腸がんの発生と進展に関与する可能性について検討を行った。大腸特異的発がん化学物質アゾキシメタンと大腸炎誘発剤デキストラン硫酸ナトリウム投与による潰瘍性大腸炎マウスモデルを用いて、トリブチル錫曝露により大腸炎の増悪に伴って大腸発がんが促進されることを見いだした。腫瘍の発生に先立ってTh2型サイトカインとTk2型サイトカインによって発現誘導される活性化誘導シチジン脱アミノ酵素の発現が誘導されること、この発現がトリブチル錫曝露により増強されることを見いだした。活性化誘導シチジン脱アミノ酵素は癌原遺伝子や癌抑制遺伝子の突然変異を誘導する内因性ナチュラルミューテーターとして発がんに関与することが示されている。一方、内因性抗酸化因子チオレドキシンを過剰発現させたトランスジェニックマウスでは、大腸炎が増悪される一方でと大腸発がんが抑制されていた。我々は既にトリブチル錫が酸化ストレス作用を介してTh2細胞分化を促進しTh2型免疫を増強することを示している。従ってこれらの結果は、トリブチル錫曝露による炎症性大腸発がん促進作用にT細胞免疫応答撹乱による活性化誘導シチジン脱アミノ酵素発現増強を介した癌原遺伝子や癌抑制遺伝子の突然変異誘導が寄与している機構を示唆している。
すべて 2012 2011
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (3件) 図書 (1件)
Cancer Research
巻: 72 ページ: 1672-1682
10.1158/0008-5472.CAN-11-3072
Immunotherapy
巻: 3 ページ: 587-590
International Journal of Cancer
巻: 129 ページ: 1126-1136
10.1002/ijc.25775
Gene Therapy
巻: (印刷中)
10.1038/gt.2011.185
World Journal of Gastroenterology
巻: 17 ページ: 1848-1857
10.3748/wjg.v17.i14.1848