研究課題
トゲウオ科魚類のイトヨ雄は、繁殖期に巣作りのために腎臓でスピギンと呼ばれる粘着タンパクを産生する。このタンパクは男性ホルモン特異的に産生されるため、男性ホルモン作用をもつ化学物質に対する優れたバイオマーカーである。申請者らはこれまで、スピギン遺伝子のクローニングおよび高感度測定系を確立し、化学物質のアンドロゲン作用検出の準備を進めてきた。本研究では、本バイオマーカー産生を仲介する重要な調節因子である男性ホルモン受容体の関与を直接的に証明し、環境ホルモン研究における本バイオマーカーの利用のための論理的裏付けを付与する。平成21年度には、イトヨARαおよびβcDNAの遺伝子クローニングおよびそれぞれのmRNAを測定するためのリアルタイム定量RT-PCR測定系を構築し、昨年度(平成22年度)には、男性ホルモンを曝露した際め両受容体遺伝子の発現変化を観察した。その結果、雌雄とも腎臓での発現はARαの方がARβに比べて10倍以上も高発現であることが明らかとなった。また、男性ホルモン曝露によって両遺伝子の発現量は減少したが、その減少度合いはβの方が顕著であり、男性ホルモン曝露によりβの発現はほぼ消失した。これらの結果から、腎臓でのスピギン合成に関与するのは主にARαであり、本バイオマーカーの定量により検出される男性ホルモン作用は、主にARαを介してのものであることが示唆された。そこで本年度(平成23年度)では、昨年度定量RT-PCR測定系を用いて明らかにした男性ホルモン曝露時のAR mRNA発現変化を、in situ hybridization法を用いて組織学的に解析した。定量RT-PCRにより得られた結果と同様、腎臓組織上においてもARαの方がARβよりも高発現であり、特にARβの陽性シグナルは殆ど検出されなかった。また、スピギンとARは同一の細胞で発現していることが明らかと成った。定量RT-PCR法で観察された男性ホルモン曝露によりARαmRNA濃度の低下は、in situ hybridization法による観察では明瞭ではなく、曝露期間中の陽性シグナル強度に大きな変化は認められなかった。以上の結果から、イトヨ腎臓でのスピギン合成にはARαが必須であると結論付けた。
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