研究概要 |
神経前駆細胞から神経細胞への分化を追跡できるP19細胞をモデルとした本研究を通じて、神経前駆細胞が神経細胞へと分化・成熟していく際に、BPAが及ぼす影響を、エピジェネティックスの視点からみた分子レベルの問題に還元し、神経系へのBPA作用機構の解明に貢献することをめざす。BPAの体内修飾型分子がエピゲノム変異原性を持つ可能性に気づき、対象化合物を予定のBPAから修飾型に変更し、研究方針を維持して実施してきた。最終分化した神経細胞におけるトランスクリプトームに修飾型分子曝露が与える影響をDNAマイクロアレイにより解析した。発現変動が最終的に確認された遺伝子間ネットワーク中の"鍵"となる遺伝子群の大半は、胎生期BPA曝露によりDNAメチル化異常が惹起されることを先に報告した胎仔終脳においても[Yaoi T.,2008]発現変動していた。このことは、本モデル系から得られた知見を個体レベルの解析に還元できることを示唆する。P19細胞由来神経細胞のトランスクリプトームが修飾型分子の曝露により撹乱されること、最も感受性の高い時期は分化誘導時であることなどが判明した。発現変動遺伝子プロモーターのDNAメチル化変動について一塩基レベルでの解析は未だ進行中である。すでにメチル化変動遺伝子を複数見出し、それらが曝露時期との関係においてトランスクリプトームの撹乱と同様の傾向にあることが示唆された。また、BPA曝露マウスで報告されたDNAメチル化異常を示す散在型反復配列IAPの総メチル化状態やRNA発現が、P19細胞由来の神経細胞においても修飾型分子の曝露により変動しすることを見出した。個々のコピーを個別に解析するとその変動は多様であり、IAPのゲノム上の位置ごとに異なる制御の撹乱が生じていることを示唆した。
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