カドミウムや水銀など毒性金属曝露による小胞体ストレス応答の発生機序、シグナル伝達系、細胞障害および防御に関わる遺伝子・蛋白の解明を行い、環境汚染金属の新たな毒性発現の分子機構のみならず、毒性学の立場から小胞体の環境ストレスに対するセンサーとしての機能を明らかにすることを目的とする。平成21年度は、以下の研究成果を得た。 1.塩化カドミウムを曝露した近位尿細管由来上皮細胞(ヒトHK-2細胞、ブタLLC-PK1細胞、マウスMCT細胞)において、Grp78蛋白、リン酸化型eIF2α蛋白、ATF4蛋白レベルは増加しており、カドミウム曝露による小胞体ストレス応答を認めた。 2.eIF2α蛋白の脱リン酸化を抑制する化合物salubrinalを処理したHK-2細胞において、リン酸化型eIF2α蛋白レベルの増加を認めた。このsalubrinal処理は、塩化カドミウムを曝露したHK-2細胞およびLLC-PK1細胞の細胞死を著明に抑制した。従って、PERK→eIF2α経路はカドミウム曝露による近位尿細管障害を抑制する経路である可能性があると考えられた。 3.塩化カドミウムおよび塩化第2水銀曝露は、マウスNIH3T3線維芽細胞において、小胞体シャペロンGrp78蛋白のみならず、分子シャペロンHSP70蛋白、HSP110(HSP105)蛋白の発現を誘導した。siRNAによるHSP110の発現抑制は、塩化カドミウムを曝露したNIH3T3細胞の細胞死を明らかに増強する結果は得られなかった。引き続き、小胞体シャペロンGrp78蛋白および分子シャペロンHSP110蛋白の発現誘導の毒性学的意義を検討する必要がある。
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