カドミウム、無機水銀やトリブチルスズなど毒性金属化合物曝露による小胞体ストレス応答の発生機序、シグナル伝達系、細胞障害および防御に関わる遺伝子・蛋白の解明を行い、環境汚染金属の新たな毒性発現の分子機構のみならず、毒性学の立場から小胞体の環境ストレスに対するセンサーとしての機能を明らかにすることを目的とする。平成22年度は、以下の主な研究成果を得た。 1. 塩化カドミウムを曝露したヒトHK-2近位尿細管由来上皮細胞において、小胞体ストレス抑制化合物サルブリナル(salubrinal)処理は、アポトーシスの発生を抑制した。この時、カドミウム曝露によるリン酸化型eIF2α (eukaryotic translation initiation factor 2 subunit α)蛋白レベル増加の持続効果を認めたが、Grp78(78-kDa glucose-regulated protein)蛋白およびATF4蛋白レベルへの影響はなかった。一方、アポトーシス発生に関わるCHOP(C/EBP homologous protein)蛋白レベルは抑制された。引き続き、サルブリナル処理によるカドミウム誘導近位尿細管アポトーシス抑制の機序についての検討を要する。 2. 塩化カドミウムを曝露したヒトHK-2細胞において、Fosファミリー遺伝子の発現誘導が認められた。また、c-Fos Ser362、Ser374部位のリン酸化を伴うc-Fos蛋白の蓄積が生じた。c-Fos発現誘導とそのリン酸化は、ERKとp38経路が主要なシグナル伝達系であった。c-Fos蛋白蓄積には、Ser374部位リン酸化による安定化が重要であると考えられた。また、Ser362、Ser374両部位リン酸化は、カドミウム曝露により生じるAP-1/c-Fos DNA結合活性上昇に関与すると考えられた。
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