毒性金属曝露による小胞体ストレス応答の発生機序、シグナル伝達系、細胞障害および防御に関わる遺伝子・蛋白の解明を行い、環境汚染金属の新たな毒性発現の分子機構のみならず、小胞体の環境ストレスに対するセンサーとしての機能を明らかにすることを目的とする。平成23年度は、カドミウム曝露によるヒトHK-2近位尿細管由来上皮細胞における小胞体ストレス応答に焦点を絞り、以下の主な研究成果を得た。 1.塩化カドミウムを曝露したHK-2細胞において、小胞体ストレス抑制化合物サルブリナル(salubrinal)処理は、アポトーシスの発生を抑制することをTUNEL法、切断型PARPおよび非切断型カスパーゼ-3蛋白レベルの評価により明らかにした。一方、カドミウム曝露によるオートファジーは抑制されなかった。 2.siRNAを用いたATF4ノックダウンHK-2細胞において、サルブリナルのカドミウム誘導アポトーシスに対する抑制効果は減弱した。従って、小胞体ストレス応答シグナル伝達経路であるPERK-eIF2α経路により発現が調節されるATF4蛋白の発現は、サルブリナルによるカドミウム誘導アポトーシスに対する抑制効果出現のためには必要であることが明らかとなった。 3.塩化カドミウム曝露HK-2細胞において、MAPキナーゼファミリーに属するJNK、p38およびERKのリン酸化が認められた。サルブリナル処理は、アポトーシス誘導に関わるMAPキナーゼであるJNKとp38のリン酸化レベルを減少させた。一方、生存シグナルとされるERK1/2のリン酸化レベルには変動をおよぼさなかった。従って、サルブリナルは細胞死に関わるシグナル伝達系を抑制することが明らかとなった。引き続き、JNKとp38の活性化を調節し、かつ、小胞体ストレス応答により活性化されるMAPキナーゼキナーゼキナーゼであるASKIへの作用についての検討を要する。
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