研究課題/領域番号 |
21510074
|
研究機関 | 国立医薬品食品衛生研究所 |
研究代表者 |
井上 達 国立医薬品食品衛生研究所, 安全性生物試験研究センター, 客員研究員 (50100110)
|
研究分担者 |
平林 容子 国立医薬品食品衛生研究所, 安全性生物試験研究センター・毒性部, 室長 (30291115)
|
キーワード | 芳香族炭化水素受容体(AhR) / 造血幹細胞 / 幹細胞ニッチ / 遺伝子発現変 / 遺伝子改変マウス |
研究概要 |
未分化な造血幹・前駆細胞レベルでの、AhR特異的な対ベンゼン相互作用を、より包括的に解明することを目的として研究を進め、以下の成果を得た。1)AhRKOマウスのベンゼン毒性に対する不応状態:野生型と比較したAhRKOマウス骨髄へのベンゼンの到達量の多寡や代謝の遅延、特異的な代謝物の有無などを検討することを目的に、質量分析による予備的検討を行った。現時点で、投与に特異的なピークの同定には至っていない。2)AhR遺伝子亜型に基づくベンゼン毒性の系統差:AhR遺伝子の亜型として、C57BL/6はb1型、C3H/Heはb2型であり、生物活性としてはC3H/HeではC57BL/6に比べて相対的に不応状態にあることが想定される。ベンゼンによる培養性造血前駆細胞数は、1日1回の5回連続経口投与後、C57BL/6では非投与対照群の88%程度まで減少したが、C3H/Heでは全く減少しなかった。一方、骨髄細胞数や末梢血球数は両系統とも同程度に減少した。これはベンゼンによる造血障害を、ベンゼン代謝物を介した細胞障害機構と、造血幹・前駆細胞特異的なAhRを介した造血障害機構という異なった機序で理解されるとするこれまでの仮説に符合する結果と考えられた。3)ベンゼン暴露28日後の発現遺伝子変動における系統差:それぞれの系統別に、発現強度に応じた有意差による群毎に特異的な遺伝子プロファイル(BICGEP)及び、それら群毎のマウス個別のstochasticな遺伝子発現を分別した。後者からは、主要因分析によって選別されるプロファイル(BISGEP)が抽出された。ついで、既存のデータ・ベースなどを利用してその特性を解析した結果、BICGEPでは多くの遺伝子が発がんもしくは細胞死/アポトーシスに関連している点で系統間に共通性があること、BISGEPではGene ontologyにも、予測される支配転写遺伝子にも系統差が認められることなどが明らかとなった。特にC57BL/6では予測される支配転写因子の候補としてAhRの抑制状態が含まれており、その生物学的意義は不明ながら、個体別に異なる転帰に関わる事象として注目された。
|