本課題の初年度における成果の一つとして、ヤナギ葉の分泌組織である鋸歯の先端の細胞にカドミウムや他の金属類が蓄積していることを明らかにしている。本年度は鋸歯の性質や重金属蓄積機構につき、さらに詳細に調べた。放射光蛍光X線分析法(micro-XRF)および低真空型SEM-エネルギー分散型X線分析法(VPSEM-EDX)を用いて、長期間重金属処理したヤナギ葉の鋸歯の内部および表面の元素分布を観察したところ、鋸歯の先端細胞は金属を蓄積しているが、分泌はしていないことが判明した。このように、ヤナギ葉鋸歯の先端細胞は、高濃度の重金属濃度に耐性を持ち、重金属集積能があることが示された。 この細胞で機能している重金属集積に関する遺伝子の解明を試みたが、葉から鋸歯先端細胞のみを選択的に切り出すのは困難を極めた。そこで、葉表面に毛状の分泌組織(トライコーム)を持つ草本植物であるタバコに着目し、これをモデル系として用いることにした。タバコ葉表面の毛状分泌組織は、その構造上比較的容易に回収することができる。これを用いて、組織特異的遺伝子ライブラリを作成、トランスクリプトーム解析を行った。スコアの高い遺伝子について、RT-PCR法を用いてトライコームと葉全体で遺伝子発現量を比較した。その結果、病原応答性タンパク質であるnon-specific lipid transfer protein、 metallocarboxypeptidase inhibitorとなどの、システイン含有量が高く比較的低分子のタンパク質をコードする遺伝子がトライコーム特異的に発現していることが判明した。また、組織内のグルタチオンを蛍光標識し、共焦点レーザー顕微鏡を用いて可視化、非破壊的に定量した。すると、トライコーム先端の細胞でグルタチオン濃度が高く、さらにグルタチオンペルオキシダーゼをコードする遺伝子の発現も高かった。これらの結果から、葉の分泌細胞における重金属解毒機構にはイオウ代謝系が関連している可能性があることが示唆された。
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