本年度はフィールドワークの手法を取り入れ、カドミウム、亜鉛、鉛、銅による複合汚染が確認されている鉱山跡地で生育しているカワヤナギ類縁種を採集し、重金属を集積しているかどうかを調べた。ヤナギが生育している土壌も同時に採取、重金属濃度を測定することにより、土壌の金属がどの程度植物に移行、濃縮されているかを示す濃縮係数(Enrichment Factor)を算出した。カドミウムと亜鉛が土壌からヤナギ植物体に効率よく吸収されていた。特に、カドミウムの濃縮係数は高く、野外での土壌からの有害金属の除去にヤナギが利用できることを示した。SPring-8の高輝度放射光を用いた蛍光X線分析(μ-XRF)によりカドミウムの植物体内での分布を詳細に分析したところ、カドミウムは細胞内(シンプラスト)よりむしろ細胞間隙(アポプラスト)に蓄積されていた。μ-XANES法で化学形態を測定したところ、Cd-0であったことから、ペクチンやリグニンなどの細胞壁成分とカドミウムが相互作用していることが考えられた。しかし、実験室内でヤナギのポット苗を用いて汚染土壌からの元素の収奪を調べたが、1年程度の短期間の処理では顕著な土壌カドミウム含有量の低下はみられなかった。このことから、木本植物を用いたファイトレメディエーションは、数年単位の時間を要することが考えられた。また、植物アポプラストの機能を有効に発揮させることで、より効率的な重金属除去技術の開発が可能であることも示唆された。 2011年3月に発生した東日本大震災の影響により起きた福島第一原子力発電所の損傷のため、拡散した放射性元素による環境汚染が広がっている。このうち、ストロンチウムは本研究で主に取り扱ってきたカドミウムと比較的性質が近いことから、ヤナギを用いた環境中の放射線ストロンチウムの除去が可能かどうか予備的検討を行った。その結果、ヤナギの種によって、培地や土壌からの植物へのストロンチウム移行に差がみられることが判明した。
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