Cycloclasticusは海洋性の多環芳香族炭化水素(PAHs)分解菌であり、PAHsで汚染された海水中で優占種となる有用な石油分解菌である。しかしながら、同菌の優占化はアルカン等の存在により抑制されることから、同菌の有用なPAHs分解活性を安定して発現させるためには、同菌を対象とした培養制御技術の開発が必要である。 本研究ではCycloclasticus属細菌を中心とする複合微生物群集のメタプロテオーム解析を行うことにより実際の汚染環境下で強い活性を示すPAHsダイオキゲナーゼの探索を試みた。 一昨年度はその第一段として、Cycloclasticus sp. S4株の単一培養によるプロテオーム解析を行ったところ、同菌は添加するPAHsの種類によりPAHsダイオキゲナーゼを使い分けていることなどが示唆された。 昨年度、これらの結果を基に本年度は、炭素源をビフェニルにした条件での複合微生物系を対象としたメタプロテオーム解析を行ったところ、複合微生物系の中で発現しているビフェニル分解酵素群の中で、初発の酸化反応から開環のステップまでを担う酵素のほとんどがCycloclasticus由来の酵素が司っていると考えられた。 上述した経緯を踏まえ、今年度は、これまでの結果を確認するため、本複合微生物系の多様性の解析を行った。まず、リボゾームタンパク多様性を検討したところ、検出されたリボゾームタンパクの約30%がCycloclasticus由来のものと考えられた。一方で、同じ条件の培養系からtotalDNAを抽出し、PCR-DGGE解析を行ったところ、同菌の優占化が確認された。これらのことから、Cycloclasticusが本複合微生物系で活発に活動していることが示唆され、ビフェニルの分解における序盤の代謝に重要であることが示唆された。
|