研究概要 |
多孔性金属錯体は、均一なナノスケールの細孔を持つ結晶物質であり、大変優れたガス吸着特性を持つ。この物質の研究においては、ナノ空間を有する骨格構造だけでなく、ナノ空間に取り込まれたゲスト分子の位置や向き、さらにはゲストーホストの相互作用の理解が不可欠である。本研究では、SPring-8の高輝度放射光粉末回折法とMEM/Rietveld法を始めとする構造解析法を駆使して、柔軟な、特に大きな骨格構造の変化を伴う多孔性金属錯体のガス吸着状態における、結合形態までも含めた精密な構造情報を得る方法を確立するとともに、この物質群の吸着機構を解明することを目的とする。 本年度は、いくつかのピラード・レイヤー型の多孔性金属錯体に対して、その結晶構造を調べた。CPL-3およびCPL-4({[Cu_2(pzdc)_2L]・mH_2O}n (pzdc=pyrazine-2,3-dicarboxylate), CPL-3ではL=2,7-diazapyrene, CPL-4ではL=1,2-azopyridine)はピラジンジカルボン酸を大きさ・形の異なるピラー分子で架橋した類似の化合物で、それぞれ8Å×3Å、10Å×6Åの一次元細孔を持つことがわかった。窒素および二酸化炭素のガス吸着等温線から、CPL-4では、ほとんど同じ大きさと形のピラーを持つ類似の化合物CPL-5に比べて吸着量が非常に少ないことがわかった。これは、CPL-4のピラー分子に含まれるazoグループ(N-N)により生じる不対電子同士の相互作用によるものと説明された。具体的なガス吸着構造はまだ明らかにされていないが、今後、吸着ガス分子の構造情報とともに、吸着に伴う骨格構造の変化を明らかにし、ガス分子と細孔との相互作用の理解につなげたい。
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