研究概要 |
高電離(HCI)の低速イオンビーム照射によって固体表面に形成される照射痕の凹凸やサイズは、同条件のビーム照射を用いても、同じく半導体のグラファイトとシリコンとでは凹凸が真逆であるように、標的物質の物性に大きく依存する。HCIの実験では本研究も含め、2次元構造のHOPG(結晶配向性の高いグラファイト)が、しばしば対象とされる。炭素単体系は、他にも「フラーレン、カーボンナノチューブ、アモルファスカーボン、ダイヤモンド」など多くの幾何構造を取り、金属~半導体~絶縁体とユニークな変化を示す。本研究が追求するのは照射痕の形成機構における物性の影響である。 21年度は2次元構造のHOPGと3次元構造のダイヤモンドとの比較から始め、結晶性素材を中心にイオンビームの照射効果を整理した。 著作(1):広く3元系の立方結晶中の複合欠陥について新しく編み出した解析法を解説、 査読論文(1):Diamondに入射した単原子イオンの作る複合欠陥の温度依存性を精査、 査読論文(2):クラスターイオンと固体の電子的・原子的相互作用に関して、スケーリング則を総説、 査読論文(3):イオンビームを用いた生体系への応用として微細加工の線刻技術を広く概説。 また、イオンビームを用いた固体の表面改質と表面解析に関する、国際会議(SMMIB)と国際ワークショップ(HRDP)では、組織委員を努めた。学会発表(1)は、それらの国際会議をも含めた発表の一つである。 低速のHCIは固体内に侵入以前に、ほぼ中性化する。初年度の成果は、中性化したビームと結晶性のある炭素系物質中での原子的相互作用に重点を置いたものである。しかし中性化の過程で起こる、電子電離・脱励起・電荷移行が、後々の照射痕形成に影響する。現在研究中の、HCIと固体中での中性化過程については、22年度の2つの国際会議(IISC,HCI)で発表予定である。
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