層状的凸構造を持つ被照射結晶面上のヒロック形成と高エネルギーイオンによる固体表面swellingとの関連性に注目し、標的物質を層状構造のHOPG(結晶配向性の高いグラファイト)に絞り、『高励起の電子系と局在フォノンの相互作用』について研究を深めた。物質依存性はこの課題において重要な論点であるため、炭素系の一つであるダイヤモンドと結晶シリコンに関して、クラスターイオンビーム照射後のアニール効果を調べた。その結果、ナノ秒に近い数百ピコ秒のところで、結晶格子の長距離相互作用の復元につながる結晶格子のグローバルな連成的な応答関係を見出した。(最新の成果については著作1件、査読論文4件が印刷中) 印刷済みの報告書は、それぞれ以下の内容を持った4本である。 解説論文(1): 巨大クラスターと物質との相互作用について、シミュレーションの可能性を紹介、 解説論文(2): 分子イオンビームと物質との相互作用の特性について概説、 査読論文(1): イオン照射による電子励起を分子動力学法に取り入れ、その温度依存性を精査、 査読論文(2): 分子イオンビームの照射による特異な格子欠陥形成について、制御性を精査。 これらの成果を踏まえ、「低速のHCIは固体内に侵入以前にほぼ中性化する、結晶性の標的に特有の長距離相互作用が、およそナノ秒のオーダーでの緩やかな応答をもたらす」と考えるに到った。HOPGについての結果は、23年度の国際会議(REI2011)で発表し、更に一般的な表現を年度内には纏める予定である。
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