1、Ag/Fe(100)量子井戸構造を用いた近藤効果・ファノ効果の変調測定 量子井戸構造を用いた近藤効果の変調に関する実験を行うため、Fe(100)表面上に低温成長したAg(100)エピタキシャル薄膜を用いた。トンネル分光(STS)によって求められた量子井戸準位エネルギーは、Ag膜厚の関数として変化し、理論的予想と非常に良い一致を示した。さらにこのAg薄膜の上にコバルト原子を吸着させたところ、ゼロバイアス付近で近藤効果による顕著なディップ構造が観測された。Ag薄膜の局所的膜厚を4MLから13MLまで変化させたところ、膜厚の関数として近藤温度とファノのq因子が変化する様子が見られた。現在、より詳細なデータを得るための実験を行っている。 2、Agストライプ薄膜における一次元的量子状態に関する研究 本研究課題では、量子細線構造による近藤効果の変調についても調査を行う。この目的に適した1次元量子系を見つけるため、Agストライプ薄膜の表面状態について調べた。低温STMでその表面状態について調べたところ、良く規定された1次元的電子状態の存在を発見した。これはAg(111)の2次元的表面状態が積層欠陥ステップによって、強い量子閉じこめを受け、ストライプに垂直方向にエネルギーが量子化されたものであることがわかった。 3、シリコン基板上In原子細線の低温相の電子状態に関する研究 近藤効果の1次元的変調を行うための量子細線構造のもう一つの候補として、シリコン基板上のIn原子細線を取り上げ、その低温相の電子状態をSTMを用いて研究した。In原子細線は130K以下の低温にすると絶縁体に相転移することが知られているが、In原子細線に少量のCo原子を吸着させたところ、絶縁相から金属相に変化することがわかった。よって、この金属化した状態は、本研究で対象とする量子細線構造として使うことが可能である。
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