1.量子井戸構造による近藤効果・ファノ効果の変調測定 Fe(100)単結晶基板上にAg薄膜をエピタキシャル成長させたAg/Fe(100)を用いて実験を行った。今年度は特に膜厚が10ML以下の薄い領域で、量子井戸状態の空間変化を詳細に観測した。Ag薄膜とFe(100)基板との界面に存在する欠陥によって、Ag薄膜表面上で観測される量子井戸状態がナノスケールのオーダーで変調されることを見いだした。また、Ag薄膜表面上に吸着したCo原子の上ではAg表面上に比べて量子井戸状態が変化することも見いだした。第一原理計算から、量子井戸状態が表面の吸着原子や欠陥によって大きく空間変化を受けることを確認した。 2.量子井戸構造による磁性薄膜のスピン偏極の制御と観測 スピン偏極STMを用いて、磁性薄膜のスピン偏極イメージングを行った。スピン偏極STMの探針は通常、磁性薄膜からできているが、スピン偏極度が小さいために測定で得られるスピンコントラストが弱く、解析の妨げになっている。今年度の研究において、試料表面の磁性クラスターを探針でピックアップすることで、探針のスピン偏極度を上げ、スピン偏極イメージングのコントラストを大幅に向上させることに成功した。 3.量子細線構造における磁性分子の配列と電子状態 シリコン基板上のIn原子細線上に成長するストライプ銀薄膜をテンプレートして、フタロシアニン分子を1次元状に配列させることに成功した。フタロシアニン分子は、回転角度と吸着位置が非常によくオーダーした分子鎖を形成する。さらにストライプ銀薄膜上に存在する1次元電子状態が、分子間に閉じこめられて量子井戸状態を形成することを見いだした。この配列構造と電子状態はSTMの探針によって容易にマニピュレーションをおこなうことが可能である。
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