研究概要 |
今年度は、シリコン表面上一次元的表面周期構造をテンプレートとして成長した積層欠陥を有する貴金属薄膜の電子状態について詳細な研究を行った。まず銀薄膜を試料としてその電子状態を低温走査トンネル顕微鏡(STM)を用いて観測した。平行な積層欠陥列によって挟まれた幅約1。3nmのストライプ領域には、明瞭な1次元的電子定在波が観測された。これは、銀(111)ショックレー表面状態が積層欠陥ステップによって量子化され、1次元的表面状態になったことを意味する。この解釈が正しいことは、試料表面上でSTMを用いてトンネル分光測定を行い、スペクトル形状を解析することで確かめることができた。また詳細な解析の結果、積層欠陥ステップにおける有効ポテンシャル障壁の値や電子反射振幅の値を求めることに成功し、さらに銀薄膜のストライプ構造列に存在する1次元的状態は互いに独立した状態であることを見出した。これらの性質は、表面上に吸着した磁性有機分子間のRKKY的スピン相互作用を伝達するためには望ましい。しかし、量子閉じこめ効果と歪み効果によってエネルギーが上昇した結果、表面状態は非占有状態になっているため、このままではスピン相互作用を伝達することはできない。 この欠点を克服するため、銀薄膜を金薄膜で置き換える実験をおこなった。シリコン基板上にストライプ構造を有する銀薄膜を成長させた後,5~10原子層程度の金をエピタキシャル成長させた。このようにして作製した金ストライプ薄膜にもやはり1次元的表面状態が存在し、しかも状態は部分的に電子に占有されていることがわかった。 よって、RKKY的なスピン相互作用を媒介し、有機分子が発現する近藤効果の変調をもたらすことができると期待できる。これは、もともとバルク試料では金は銀より(111)ショックレー表面状態のエネルギーが0.5eV程度低いためであると考えられる。
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