本研究の目的は、有機分子構造体のLCPD値を単一分子レベルで定量的かつ精密に計測するための実験手段および分子ナノセルユニットとして最適な分子構造を開発し、LCPD値が確かに分子セル固有の情報として運用可能であることを実証し、有機分子ならではの機能性に基づくナノメートルスケール情報処理スキームに技術的な道筋をつけることにある。今年度は、分子ナノセルのコンセプトモデルとして、それぞれ異なる金属元素(Ni、Co、Zn)が中心に入ったポルフィリン分子ユニットを新たに合成した。これらを超高真空中にて清浄平坦化した金属基板上に分散配置し、STM、NCAFM、SKPMそれぞれの観測モードにて分子スケール分解能観測を試み、内包金属種の違いに起因する「分子の見え方の違い」について検討した。その結果、NiおよびCoを導入した分子ユニットについて、STMモードによる観測では分子形状のコントラスト構造に明確な差異があるものの、NCAFMモードによる観測ではその見え方にはほとんど違いが見られないという知見を得た。この結果が意味するところを明らかにするためにはSKPMによる観測が必須であるが、この手法による単一分子スケールの観測は技術的に未確立な部分が多く残されているため、今年度は本手法の安定動作と空間分解能向上を企図した技術探索に注力した。その結果、カンチレバーの基準固有振動数にさらに高次のハーモニック信号を重畳しつつそれぞれのモードを同時に自励発振させ、1次振動をSKPM信号、2次振動をNCAFM信号として検出することで、NCAFMの空間分解能を劣化させること無くSKPMの検出感度を大きく向上できることがわかった。次年度は早期にこの新手法の定量性を確立し、STM、NCAFM双方の観測実験で得られた違いが分子のLCPD値に確かに起因するものであることを確固たる形で実証する。
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