量子ドットから発する蛍光の強度がなぜ間欠的にブリンクするのかを解明するために、当該年度は、一分子につけた量子ドットの蛍光強度の時系列データからその背後にある速度論的スキームを抽出するための新規な手法を開発した。その手法を実験で得られる時系列データに適用するためには、蛍光強度の時系列データを、量子ドットが蛍光を発している「明」状態、蛍光を発していない「暗」状態のそれぞれの状態に滞留する「滞在時間の時系列」に変換する必要がある。ここでは、変化点/バースト解析を実験で得られた時系列データに適用し、各状態の滞在時間の時系列に変換した。 よく知られているように、一つの与えられた滞留時間の時系列に対し、その時系列がもつすべての統計的相関を正しく与える速度論的スキームは一通りとは限らず、複数存在する可能性がある。当然ながら複数存在する場合には、速度論的スキームは滞留時間の時系列が持つ相関だけからは一義的に定めることができない。我々は「与えられた滞留時間の時系列が持つすべての統計的相関を保持する速度論的スキーム全体の集合の中で、もっとも単純で偏りのない速度論的スキームはどれか?」という問いを立てることで、速度論的スキームを一義的に定める方法論を情報理論に基づき開発した。この手法は、滞留時間の時系列データからその時系列が持つすべての統計的相関の情報を過不足無く保持する唯一の速度論的スキームを抽出するものである。この手法は、一切の経験的パラメータに依存しない、という特徴をもつ。構成された本速度論的スキームを用いることで、実験により得られる滞在時間の時系列に観測される相関、記憶等と速度論的スキームのネットワーク構造との対応関係を明らかにすることができるものと期待される(PNAS投稿予定)。
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