SAWと流体が相互作用すると、流体が振動、流動、飛散する現象が起こることが実験により確認されている。そこで、飛散現象が存在することから計算する空間領域を限定しない粒子法を用い、これら3つのSAWによる流体駆動現象の物理メカニズムを解明するため、Lennard-Jones potentialを用いた粘性流体モデルによる数値計算を行った。その結果、実験結果と同じく、3つのSAWによる流体駆動現象のモードが得られた。具体的には、流体の粘性が並進方向のポテンシャルを上回る場合は流体が流動せず振動のみのモードになり、並進方向のポテンシャルが上回った場合は流動現象がみられることがわかった。更に、SAWによるエネルギーが粒子間相互作用ポテンシャルを超える場合は、飛散現象がみられることもわかった。以上より、3つの駆動モードは流体の粘性、SAWの持つエネルギー、流体と壁面の相互作用に起因した現象であることが証明され、本粘性流体モデルにより物理メカニズムが解明された。 この解析結果と実験結果を基に、駆動源をSAWのみとする連続流体用の2液混合化学反応チップを設計・作製した。このチップでは、SAWで駆動する2つのポンプと1つの混合器、およびY型流路で構成される。2つのSAWポンプは合流前の流路にそれぞれ配置し、SAW混合器は合流後の流路に配置した。そして、このチップを用いて、ルミノール反応による化学実験を行い、その時の様子を高感度カメラで撮影した。その結果、ルミノール反応の発光状態より、SAWを用いることで連続流体の局部的で迅速な化学反応が行われ、本混合チップのリアクターとしての有用性が明らかになった。
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