異方性の高い高温超伝導体では、超伝導を担うCuO2面と平行の磁場が磁束量子を形成する場合、磁束のコアがCuO2面を横切ることがなければ、低散逸での運動が可能となる。この様な磁束量子はジョセフソン磁束と呼ばれ、接合バイアス電流によりローレンツカを受けて面内を高速運動し、磁場Bと面内運動速度vと面間隔sに比例した磁束フロー電圧V=Bvsが観測される。一方、磁束量子がCuO2面を跨ぐと(パンケーキ磁束)、運動は大きく制約され電圧はほぼゼロとなる。 我々は異方性γを35程度と高くしたY-123系高温超伝導体固有ジョセブソン接合で、この二つの磁束状態間を電流でスイッチさせることに成功し、しかもその磁束状態が電流を切っても保持されることから、不揮発性の記憶素子として使えることを提案してきた。さらに、Y-123系高温超伝導体に加えて、Bi-2212系においても、二つの磁束状態間を電流でスイッチさせることに成功した。 Bi-2212系試料はテラヘルツ発振現象で注目を集めていることから、平行磁場条件下での発振にはジョセフソン磁束状態を維持することが必須である。従って、磁束状態電流スイッチ現象のメカニズムを解明することは、発振条件の確立に欠かせないばかりか、磁場を変えずにON/OFFを行うことも可能となる。今年度は、Bi-2212系における磁束状態間電流スイッチ現象について詳細に検討し、スイッチングが接合の加熱により起きているというモデルを提案した。バイアス電流による加熱で、接合温度が超伝導遷移温度に近づくとパンケーキ磁束が生成する磁場(Hcl)がゼロに近づき、結晶と磁場の僅かな方位のずれによる接合方向磁場成分によりパンケーキ磁束が生成する。さらに温度が上がり超伝導遷移温度を超えると磁束が消滅し、この状態からバイアス電流を切ると急冷により、ジョセブソン磁束状態が再現すると考えている。
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