本研究の主題は、個人の混雑回避行動と全体の混雑状況がいかに相互に影響を与えるかを分析することにある。 サービスに対する優先度は、インターネット上の通信に対してなどで広く使われている。サービスの優先度が、個人の混雑回避行動とシステム全体の混雑状況に与える具体的な例としてテーマパークを考え、顧客行動とテーマパークの混雑状況の均衡分析を行った。昨今、テーマパークにおいて、優先パスが有償または無償で配布されている。優先パスは、それを持っている顧客に心理的な優越感を与え、好評である。 しかし、実際には、優先パスを持っている顧客だけが有利となり、持っていない顧客は不利になる。直観的には、優先パスの使用によって短くなった待ち時間は、他の顧客の余計な待ち時間となるとも考えられる。よって、優先パスという仕組みが顧客全体に与える影響は、必ずしも明らかではない。顧客が混雑回避をする行動モデル上に、2種類の優先パスシステムを構築した。顧客行動の理論的な均衡分析を行うことにより、優先パスが顧客全体の効用(心理的な意味ではなく、顧客全体の延べ待ち時間減少の意味)を上げる効果を持つことを示した。 今までも優先度は、重要なジョブを優先するという形で混雑問題において使われてきた。しかし、本研究は、優先度が全体の混雑問題を緩和しうるというまったく新しい視点を与えている。本研究の基本的な考え方は、テーマパークだけでなく、その他のサービスシステムにも広く適用できるという意味で重要である。
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