本年度は、遺伝子組み換え食品に関するリスクコミュニケーションの評価を検討した。先行研究における遺伝子組み換え食品のリスクに関する議論を整理した上で、全国の一般消費者宅7000戸にアンケート調査票を配布し、回収された993の回答を分析した。 既存研究には、リスクコミュニケーションによって一般消費者の遺伝子組み換え食品に対する反感が緩和するというものと、明確な成果は確認できないとするものが存在する。われわれの調査結果では、遺伝子組み換え食品の場合、理解度の向上とそのことの社会的意思決定についての効果を評価すべきとの結論を得た。遺伝子組み換え食品の場合、ほとんどの一般消費者が、その是非を判断できる情報を持っておらず、しかもそのことを自身で認識している。したがって、リスクコミュニケーションは消費者に歓迎される傾向にあるが、それによって一般消費者が遺伝子組み換え食品に肯定的な意見を持つようになることを保証しない。一方的に肯定的な情報を与えた場合、肯定的な意見に偏りやすい傾向があるのも事実だが、そうした情報を信用しない消費者も存在する。肯定的な情報と社会的に出されている懸念についての情報を、両方併記した場合は、遺伝子組み換え食品の是非についての判断およびその確信度に大きな変化は見られない。ただし、自分と異なる意見を持つ人々が、なぜそのような判断をするのかについての理解度が向上することが確認された。このことは、遺伝子組み換え食品に関して冷静な社会的議論を行う前提条件の確保として理解すべきであり、本研究では、もしそうした条件が確保されない場合の、社会的対立の軽減をリスクコミュニケーションの成果として評価すべきであることを指摘した。
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