研究概要 |
1995年の阪神淡路大震災を契機として、我が国の強震観測網は飛躍的に充実した。この結果、マグニチュード7を超えるような内陸地震では、確実に震源域での記録が得られるようになった。震源域での記録には、構造物に被害を及ぼすような震動要因が含まれている。震源域での強震記録が示す特徴の一つは、並進運動成分に傾斜(回転)運動成分が重畳していることである。このため、地動の傾斜(回転)運動の推定とその構造物への影響に関する研究が要請されている。 本研究の目的は、震源域での強震記録から傾斜運動を推定する方法を確立し、実記録に適用して新たな知見を得ることである。このため、初年度はこの推定方法に関する研究を行った。結果として得られた新たな傾斜運動推定方法は以下の手順である。 1.加速度強震記録を広帯域速度計記録に変換する。勿論、広帯域速度記録はそのままとする。 2.傾斜運動は、広帯域速度記録上では長周期の過渡応答波形となるため、これをintrinsic mode function (IMF)を用いて抽出する。これは、地震記録から非定常・非線形信号に適用可能な直交関数系を作り,その関数系で過渡応答波を表現することに相当する。 3.抽出された過渡応答波を広帯域速度計の逆特性で補正すると地動の加速度傾斜成分が得られる。但し、この作業は計算における発散を防ぐため、加加速度領域で行い、その後、完全積分をすることで加速度領域に戻す。 本研究では、確立された方法を検証するため、2003年十勝沖地震において得られた広帯域速度計記録を用いた。結果として、この方法は安定で精度の良い傾斜運動を推定できることが確認された。
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