本研究においては、自然災害における経済的影響評価の方法を標準化するための枠組みの構築を目指している。特に開発途上国では災害からの被害が甚大であることだけでなく、多くの援助を受けた開発の妨げにもなり、長期的な開発の経済成長の停滞につながるとも考えられている。現在では世界銀行と国連が協同で開発途上国における災害被害低減に向けた活動を行っている。と同時に、災害被害に係わる調査や統計データの収集に関しては各国によって差があり、国際機関(世界銀行や国連等)からの災害を鑑みた開発支援においてその政策助言に影響を与えているばかりでなく、蓄積されてきた開発資本が損失することにもなり、開発政策の根本的な見直しが必要でありながらそれが出来ない現状である。このため、災害の経済的影響評価の方法を現在まである程度確立しているデータの収集や開発指標と関連づけて構築することで、開発途上国における災害対策立案や災害後の援助・支援計画に役立てるものである。本年度は、研究代表者が平成20年度に従事した世界銀行からの委託研究の成果を拡張し、災害の経済影響評価の、特に開発途上国での、必要性とその限界をまとめ、複数の国際学会で発表し、この課題の重要性を関連研究者やステークホルダーと共有するとともに、意見交換や研究情報交換を行い、本研究で実行する災害の経済的影響評価方法の標準化へ向けた目標や課題を整理・分析した。その中で、最も重要かつ火急の課題として抽出されたものは、災害の経済的影響の概念の定義である。現在までこの定義は不明瞭なだけでなく錯綜しており、この点が標準化へ向けた第一歩であるとともに重要な核であることがわかった。
|