本研究は、約3000万年前に現在のような氷の大陸となった南極の極限環境下(極低温、貧栄養、白夜/極夜の特殊な日照条件)に生息する細菌の低温環境への適応と進化の解明を目的として、南極湖沼で発見された水生のコケを中心とした微生物共生体「コケ坊主」から微生物(細菌)を単離し、その生命機能の解析への基盤構築を試みた。 1、南極微生物(細菌)の分離と同定 南極湖沼の微生物共生体「コケ坊主」試料(共生体の外縁部、内部、含有水)から、広範な分離条件(温度:4℃~15℃、培地条件:栄養培地、グルコース最小培地、糖源欠失完全合成培地)での微生物(細菌)の分離を試みた。その結果、82株の微生物コロニーの単離に成功した。これらから、PCR法でのリボゾーム遺伝子の増幅を試み、71株で細菌の16Sリボゾーム遺伝子の増幅に成功した。さらに、このうちの63株で16Sリボゾーム遺伝子の部分配列の解読に成功し、DNAデータベースとの検索から30株は既知細菌の近縁種であることが示唆されたが、33株は新規の未同定菌の可能性が示唆された。 2、南極微生物(細菌)のゲノミック・クローン・ライブラリーの作製 分離・同定された南極微生物(細菌)の中から、遺伝子機能解析および将来的なゲノム解析に向けてフォスミド・ベクターを用いたゲノミック・クローン・ライブラリーを、Pseudomonas属細菌について構築した。パルスフィールド電気泳動解析で推定されたゲノムサイズ約4.7Mbに対して約98%のカバー率のライブラリー構築に成功した。 3、機能遺伝子解析のためのスクリーニング条件の検討 構築したフォスミド・ベクターを用いたゲノミック・クローン・ライブラリー用いて、低温環境に適応する遺伝子のスクリーニングを試みた。いくつかの候補クローンを選別し、その解析手法の検討に着手した。
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