研究概要 |
本研究は、約3000万年前に現在のような氷の大陸となった南極の極限環境下(極低温、貧栄養、白夜/極夜の特殊な日照条件)に生息する細菌の低温環境への適応と進化の解明を目的として、南極湖沼で発見された水生のコケを中心とした微生物共生体「コケ坊主」から微生物(細菌)を単離し、その生命機能の解析への基盤を構築するために以下の実験を行った。 (1) 分離した南極の好冷性Pseudomonas属細菌のゲノム解析 南極湖沼の微生物共生体「コケ坊主」試料から分離した好冷性のPseudomonas属細菌MP1株のゲノム解析を行った。パルスフィールド電気泳動で推定されたゲノムサイズ約6.4Mbに対して、新型DNAシーケンサーRoche 454で22倍となる冗長度のWhole Genome Shotgunシーケンスを行い、6.332Mbの塩基配列を決定した。BLAST解析などでゲノム・アノテーションを行った結果、5,954遺伝子(ORFs)の存在が示唆された。代謝経路遺伝子などで既知のPseudomonas属細菌との差異が示唆された他、既知のPseudomonas属細菌のゲノムには無い新規な遺伝子が多いことも示唆された。これらは水平伝播により獲得された遺伝子群である可能性が高く、現在、その詳細について検討中である。 (2) 南極の好冷性Pseudomonas属細菌MP1株からの変異株の分離 南極の好冷性Pseudomonas属細菌MP1株から生育温度の異なる変異株の分離に成功し、その中には低温から中温まで生育可能となった株、低温では生育できなくなった株などがあり、これらの変異株のゲノム比較解析を通じて、このPseudomonas属細菌の低温環境への適応メカニズムの解明を進めている。 (3) 南極の窒素固定細菌の分離 南極湖沼の微生物共生体「コケ坊主」試料から窒素固定に関与するニトロゲナーゼ遺伝子を持つ細菌を多数分離し、それらのゲノム解析の検討に着手した。
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