本研究は、南極の極限環境下に生息する細菌の低温環境への適応と進化の解明を目的として、南極の限られた湖沼に生息する水生のコケを中心とした微生物との共生体「コケ坊主」から分離した微生物(細菌)のゲノム解析を通じて、その生命機能解明への基盤を構築するために以下の実験を行った。 (1)分離した南極の好冷性Pseudomonas属細菌のゲノム解析と生育温度変異株の解析 南極の好冷性Pseudomonas属細菌MP1株から得られた生育温度の異なる変異株には低温から中温まで生育可能となった株、低温では生育できなくなった株などがあり、これら変異株のゲノム比較解析を通じて、このPseudomonas属細菌の低温環境への適応メカニズムの解明を進めるために、ゲノム解析情報の精緻化を検討した。具体的には、野生株であるPseudomonas属細菌MP1株のゲノム塩基配列情報でリピート配列など解像度の低い箇所の再解析、アノテーション(ゲノムの注釈情報)の高精度化および他のPseudomonas属細菌ゲノム情報との比較を行った。 (2)低温環境への適応に必要な遺伝子群の探索 南極の好冷性Pseudomonas属細菌MP1株のゲノム情報の詳細な解析、特に既存の中温性のPseudomonas属細菌のゲノム情報との比較から、低温環境への適応に関与する遺伝子群の候補が得られた。さらに、ゲノム全体に渡ってコードされる構造遺伝子のアミノ酸組成比の特性が示唆された。現在、これらの知見をまとめ、研究成果としての投稿論文を準備中である。 (3)大腸菌の網羅的-代謝遺伝子欠失株を用いた代謝機能遺伝子のスクリーニング・システムの構築 南極の好冷性Pseudomonas属細菌MP1株のフォスミド・ベクターを用いたゲノミック・クローン・ライブラリーを活用として、大腸菌の代謝遺伝子を欠失した株を用いた代謝機能遺伝子解析の条件検討を行い、いくつかの代謝遺伝子において有効性を確認した。
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