研究概要 |
酵母へ移行したベクターの構造解析を行なった。生物界間接合ではプラスミド上のoriT領域を起点および終点としてssDNAの状態で受容真核細胞へDNAが移行すると考えられてきた。そのため移行したベクターは核内で再環状化するまでにoriT領域を中心に受容細胞側のヌクレアーゼにより欠失する可能性があった。そこで酵母へ移行したIncP型,IncQ型プラスミドベクターのoriT領域の塩基配列を計96クローンについて解析したところ,全てのoriT領域の配列は完全に保存されていた。この結果より,移行後の再環状化は受容側酵母のDNA修復系に依存しない可能性が考えられたため,更にHRまたはNHEJに関与する5株のDNA修復系遺伝子変異株を用いて移行効率とoriT領域の塩基配列を解析した。その結果,いずれのDNA修復系遺伝子変異株を用いても移行効率には有意な差は観察されず,各変異株を用いたTranscon jugantのoriT領域配列を10クローンずつ解析した結果でも,コントロールに用いた野生型株において,10クローン中1クローンで欠失が見られたものの,他は完全に保存されていた。以上の結果は,生物界間接合においてはこれまで考えられてきたT-DNA様の移行メカニズムとは異なり,環状化したプラスミドが受容細胞へ移行する,もしくはプラスミドと共に移行した供与側因子により受容細胞内で正確に再環状化する事を示している。生物界間接合はこれまで考えられてきた以上に遺伝子導入系として優れている事が明らかになった。
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