ドミニカ産の緑藻Avrainvillea nigricansから単離された化合物ニグリカノシドAのジメチルエステルは、抗癌剤タキソールと同様の有糸分裂阻害に基づく強力な癌細胞増殖抑制作用を示す(IC_<50>~3nM)。これは、炭素数20と16の2本の不飽和脂肪酸鎖とガラクトグリセロールがエーテルでクロスリンクした、新規で特異な化学構造を持つので、既存の抗癌剤に耐性を示す癌にも有効な新規抗癌剤のリードとして強く期待される。一方、これは藻からの産生量が少ないため(1.5~3.0×10^<-6>%wet wt)、その供給法の開発が課題になっている。また、これは、生物活性の詳細を研究する上で必須な立体化学が未解明なので、その究明も不可欠な課題となっている。申請者は、ニグリカノシドAジメチルエステルの物質供給と絶対立体配置決定を担う全合成を目的に研究を企画し、展開している。 平成21年度は、ガラクトグリセロールとC20脂肪酸鎖のエーテル結合部の立体選択的構築法の確立と、天然物の同部分の相対立体配置の解明を検討した。その結果、不斉転写型アイルランドクライゼン転位によるエーテル形成とジュリアオレフィン化による脂肪酸鎖伸長を基盤として、目的構造の立体選択的構築法の開発に成功した。さらに、同法でモデル化合物を合成し、天然物のNMRデータとの比較により、天然物のエーテル結合部の相対配置の推定が可能になった。
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