ドミニカ産の緑藻アブレインビレア・ニグリカンスから単離された化合物ニグリカノシドAのジメチルエステルは、抗癌剤タキソールと同様の有糸分裂阻害に基づく強力な癌細胞増殖抑制作用を示す(IC_<50>~3 nM)。これは、炭素数20と16の2本の不飽和脂肪酸鎖とガラクトグリセロールがエーテルでクロスリンクした、新規で特異な化学構造を持つので、既存の抗癌剤に耐性を示す癌にも有効な新規抗癌剤のリードとして強く期待される。一方、これは藻からの産生量が少ないため(1.5~3.0×10^<-6>% wet wt)、その供給法の開発が課題になっている。また、これは、生物活性の詳細を研究する上で必須な立体化学が未解明なので、その究明も不可欠な課題となっている。申請者は、ニグリカノシドAジメチルエステルの物質供給と絶対立体配置決定を担う全合成を目的に研究を企画し、展開した。 平成22年度は、前年度に確立したガラクトグリセロールとC20脂肪酸鎖のエーテル結合部の立体選択的構築法を用いて、ガラクトグリセロール部の立体異性体2種類とC20脂肪酸鎖とをエーテル結合部において異なる立体化学で連結し、4種のジアステレオマーモデル化合物を得た。これらモデル化合物と天然物のNMRスペクトルの比較から、極めて一致するモデル化合物1個を見出した。これにより、天然物のガラクトース部とグリセロール部、およびエーテル結合部の3者の立体配置の相対関係を決定することができた。また、天然物とモデル化合物のプロトンNMRにおいて、立体構造と化学シフトに相関が見られることが判り、その理由を考察した。
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