本研究では、技術的困難のため近い将来プロテオミクスの進展のボトルネックとなるおそれの高いタンパク質の同定を迅速かつ確実に行うため、簡単で高感度のタンパク質のカルボキシル末端(C末端)ペプチドの単離とそのアミノ酸配列解析法の完成を目指す。平成21年度の研究で、タンパク質中の全カルボキシル基をアミド化した後酵素消化し、消化によってアニオンとして解離しうる遊離のカルボキシル基を、目的とするC末端ペプチド以外のすべてのペプチドに生じさせ、負電荷を帯びたすべてのペプチドを強塩基性陰イオン交換体(SAX)に吸着させて除去することで、タンパク質のC末端ペプチドを濃縮・分離するという計画は、高速液体クロマトグラフ用SAXカラムを用いることで、少なくとも高度の濃縮までの計画は達成できた。現在さらに濃縮効率を高めるための実験を行っている。一方、濃縮したタンパク質のC末端ペプチドの質量分析法によるアミノ酸配列解析実験は、カルボキシル基の修飾にエチレンジアミンを用いることでスペクトルの解析が容易になった。またこの修飾によって、酸性のアスパラギン酸が塩基性のリジンのアナログに変換され、トリプシン様酵素で部分的にではあるが加水分解されるという現象を見いだした。現在、この現象を利用したタンパク質の限定的酵素消化と、質量分析における解析を修飾試薬の安定同位体標識を組み合せた新たな手法を加えて、目的とするタンパク質の簡易かっ迅速な同定法の開発を進めている。
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