研究概要 |
本研究は細胞性粘菌Dictyostelium discoideumの転写因子STATaの標的遺伝子として多く見られるセルロース遺伝子の形態形成における役割を明らかにすることを目的し、初年度は以下の実験を行った。 1)新たに1つのエクスパンシン遺伝子(expL3)と5つのセルラーゼ遺伝子(エンドグルカナーゼ遺伝子としてcelC,celD,glcA、グルコシダーゼ遺伝子としてgluA、エキソグルカナーゼ遺伝子としてcbhA)をクローン化した。 2)celDを除く全ての遺伝子について遺伝子破壊株を作製した。glcA遺伝子破壊株とcbhA遺伝子破壊株では形態形成の異常として表現型が観察された。特に、cbhA遺伝子破壊株では著しい形態の異常が見られた。 3)celDを除く全ての遺伝子の過剰発現株を作製した。形態的な異常となって観察されたものはなかったが、glcA遺伝子とcelC遺伝子、及びcbhA遺伝子についてはセルラーゼ活性の増加が見られた。特に、cbhA遺伝子では増加が著しかった。 初年度は細胞性粘菌が充分なセルラーゼ活性を有し、遺伝子改変によってそれらの活性が上昇することが示された。細胞性粘菌の適温が室温であることから、セルラーゼ活性の検出が室温で行われたにもかかわらず充分な活性を示したことは、細胞性粘菌がセルロースバイオマスを栄養源として利用し成育過程でグルコースを産生し、バイオエタノールの産生に利用可能な有望な生物であることを示している。他生物種のセルラーゼの至適条件は高温域と酸性側のpHにあるため、これらのセルラーゼを効率よく作用させるためには温める必要があり、そのために余分なエネルギーを消費する。もし、他種生物のセルラーゼと比較して室温で充分な活性を示すのであれば、余分なエネルギーの損失が無い点で非常に優れていると考えられる。
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