平成21年度は、超好熱性古細菌Aeroopyrum pernix K1由来のPrxタンパク質と基質(過酸化水素)が結合した状態の立体構造を明らかにした。タンパク質と基質の複合体の構造解析では、通常は反応が進行してしまうため、反応中間体や反応前の状態を明らかにすることは非常に困難である。しかし本研究の場合、タンパク質の結晶を基質を含む溶液に浸すことによって反応前の構造を明らかにすることができた。そして、活性部位のシステイン残基の硫黄原子の近傍に過酸化水素が結合している状態を立体化学的にとらえることができた。また、変異導入によりその硫黄原子を酸素原子に置換しても同様に過酸化水素が結合していたことから、基質の結合には直接反応する原子よりもむしろ、周辺の原子との相互作用が寄与しているということが明らかになった。この結果、反応中間体におけるPrxの構造変化に先だって過酸化水素の結合が起こることが明らかになった。また、過酸化水素と周辺の原子との相互作用が明らかになった。これは、Prxの反応のごく初期のメカニズムが立体化学的に理解できるようになるという意義がある。また、これまで他の生物種由来のPrxでは、活性部位近傍に結合した安息香酸のカルボキシル基の2個の酸素原子を過酸化水素に見立てて間接的に基質結合が議論されていた。それが直接可視化できたということは、活性酸素とタンパク質の反応という分野で意義深い発見である。 チオレドキシンについては、本年度はんA.pernix K1のゲノムから3種類の遺伝子を取り出し、大腸菌における発現系を構築した。その一つについては高濃度で均一に精製することができたが、結晶化には至っていない。
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