研究概要 |
本研究は、抗酸化システムのメカニズムを、それを担うタンパク質の構造解析およびその解釈を通して解明しようとするものである。まず、過酸化水素を還元する機能を持つペルオキシレドキシン(Prx)について基質(過酸化水素)との複合体の構造解析をすることにより、反応初期のメカニズムを明らかにした。この構造情報は後にHallらによって、過酸化水素還元の遷移状態を記述するのに用いられた。しかしながら、その遷移状態は我々が提唱した超原子価中間体を経由する反応経路とは矛盾するため、今後その研究は整理する必要がある。そのために、類縁だが別種由来のPrxを用いて反応機構を解明するための研究を現在続けている。 次に、Prxの基質である過酸化水素を生成する酵素に着目した。スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)は、2分子のスーパーオキシドラジカルを1分子の酸素および過酸化水素に不均化する酵素であり、活性中心に存在する金属イオンの酸化還元にともなって反応サイクルが進行する。SODは活性中心の金属イオンによりFe-SOD,Mn-SOD,CuZn-SOD,Ni-SODに分類される。FeとMnの両方をコファクターとするSODはcambialistic SODと呼ばれる。本研究では超好熱性古細菌由来のcambialistic SODに着目し、それぞれの金属との複合体の立体構造を明らかにした。立体構造は金属の種類によりほとんど変化はなかったが、活性中心のみに着目すると違いが見つかった。これらの違いにより、同cambialistic SODの金属イオン特異性を立体構造の面から説明することができた。SODの反応は金属と過酸化水素・酸素・スーパーオキシド・水が関与している。このメカニズムを明らかにするためにはX線結晶解析だけでは不十分で、中性子線回折を利用する必要がある。そのためには大型結晶の作製が必須であるため、その作製法の開発に取り組み、成功した。 本研究では上記の内容と関連して、糖代謝系酵素の構造解析にも成功した。
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