研究課題/領域番号 |
21510246
|
研究機関 | 福井工業大学 |
研究代表者 |
草桶 秀夫 福井工業大学, 工学部, 教授 (50169976)
|
キーワード | ゲンジボタル / ヘイケボタル / 遺伝的多様性 / 分子系統樹 / 生物多様性 / 遺伝的判別法 / PCR法 / ND5遺伝子 |
研究概要 |
これまでの研究で、ゲンジボタルおよびヘイケボタルのND5遺伝子の塩基配列に基づき、ゲンジボタルおよびヘイケボタルは、高い遺伝的多様性を示すことを明らかにしてきた。これまでの著者らの研究で、ゲンジボタルのND遺伝子の塩基配列に基づき、ハプロタイプグループは、分布域の異なる8つのグループに分けられた。これらの8つのゲンジボタルの地域集団は、それぞれ遺伝的多様性が高いことを明らかにしている。ゲンジホタルは、水のきれいな環境に生息し、環境指標生物となっている。ホタルは、夏の風物詩となっており、ホタルの保護や保全活動を行うことは、意義がある。最近、町おこしや地域の活性化を目的に、人工飼育された幼虫や成虫を自然界に放流することが急増している。このような遠く離れた人為的放流は環境保全という点からも大きな問題である。 そこで、平成23年度において、人為的に放流されたゲンジボタルがどのような場所から放流されたかを同定する2つの手法を検討した。1つの方法は、PCRによる遺伝子合成法であり、放流されたゲンジボタルを簡便に7つのグループに分類・同定する方法である。この方法によって、本来生息していない北海道沼田町に生息するゲンジボタルが、遺伝的グループ4に同定された。本研究にって、この地域に移植されたゲンジボタルは、西日本の近畿・中国地域から移植されたことが推定された。もう1つの方法は、ND5遺伝子の塩基配列に基づき、分子系統樹からゲンジボタルが持ち込まれた場所を推定する方法である。本方法によって、長野県辰野町のゲンジボタルが滋賀県守山から放流したものであることを推定した。これらの遺伝子合成法による遺伝的グループの判別法および塩基配列に基づく分子系統樹からの類縁関係による判別法は、放流したゲンジボタルがどのような場所から放流したかを明らかにする方法として意義がある。 以上のことから、平成23年度において、人為的放流されたゲンジボタルがどのような場所から放流されたかを推定する遺伝子判別方法を確立したことは、大きな意義がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
交付申請書に記述しているように、(1)ゲンジボタルの地域集団の遺伝的多様性(H21年度)、(2)ヘイケボタルの遺伝的集団の遺伝的多様性(H22年度以降)、および(3)遺伝的判別法のための遺伝子マーカーの開発(H23年.24年度)の研究は、ほぼ予定通り、終了している。今後、人為的に放流された事例報告のあるゲンジボタルについて、遺伝的判別法によってそのホタルがどこから持ち込まれたかを明らかにしていく。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、人為的放流されたゲンジボタルがどのような場所から持ち込まれたかを推定する手法として、(1)PCR法による遺伝的判別法、および(2)塩基配列に基づく分子系統樹からの遺伝的判別法および類縁関係法を確立した。今後、これらの方法を用い、これまでに人為的放流の事例報告のあるゲンジボタルがどのような場所から持ち込まれているかを上記の2つの方法によって解明していく。今後、本研究によって得れられる知見に基づき、ホタルの生態系の保全という観点からゲンジボタルの移植(放流)に関する指針を提案していく。日本人に親しまれているゲンジボタルは、東日本では4秒間隔で、西日本では2秒間隔で発光する特徴をもち、生物多様性の高い生物である。本研究の推進は、学術的知見を得るための研究ばかりでなく、人為的放流を防ぐことにもつながり、その意義は大きいと考える。
|