平成21年度と22年度において、ゲンジボタルおよびヘイケボタルのND5遺伝子の塩基配列に基づき、ゲンジボタルおよびヘイケボタルは、高い遺伝的多様性を示すことを明らかにしてきた。これまでの著者らの研究で、ゲンジボタルのND遺伝子の塩基配列に基づき、ハプロタイプグループは、分布域の異なる8つのグループに分けられた。これらの8つのゲンジボタルの地域集団は、それぞれ遺伝的多様性が高いことを明らかにしている。最近、町おこしや地域の活性化を目的に、人工飼育された幼虫や成虫を自然界に放流することが急増している。このような遠く離れた人為的放流は環境保全という点からも大きな問題である。 平成23年度において、人為的に放流されたゲンジボタルがどのような場所から放流されたかを同定する2つの手法を確立した。1つの方法は、PCRによる遺伝子合成法であり、放流されたゲンジボタルを簡便に7つのグループに分類・同定する方法である。もう1つの方法は、ND5遺伝子の塩基配列に基づき、分子系統樹からゲンジボタルが持ち込まれた場所を推定する方法である。 平成24年度には実際放流したと思われるホタルについて、遺伝的グループの判別法および塩基配列に基づく分子系統樹からの類縁関係による判別法により、放流したゲンジボタルがどのような場所から放流したかを明らかした。 本研究におけるゲンジボタルの地域集団内の遺伝的集団構造を解明した環境保全遺伝学的研究は、ゲンジボタルの地域間の類縁関係を明らかにするとともに、人為的に放流されたホタルの移入先の同定法を確立したものであり、環境保全と言う点からも意義は大きいと考える。
|