海洋島の小笠原諸島では陸水域や海域から十脚目甲殻類などの固有種が相次いで発見されており、これらの種は絶滅のおそれがある種としてレッドリストに掲載され、保全すべき対象種として扱われるようになったが、保全に必要な生活史や分布についての情報はまだ不足している。また、小笠原諸島地先の海域では造礁サンゴの白化現象により、共生エビやサンゴガニ類など造礁サンゴとの関わりが深い十脚目甲殻類が危機的な状況に晒される可能性があるが、この海域に生息する十脚目甲殻類の研究は不十分であり、種のリストさえ整っていない。そこで、本研究では、小笠原諸島の陸水域やサンゴ礁海域で十脚目甲殻類の調査を行い、固有種や絶滅危惧種など十脚目甲殻類のインベントリを作成するとともに、必要に応じてこれらの種の初期生活史や分布情報などを明らかして、今後の保全施策に資することを目的としている。本研究では前年度に引き続き小笠原諸島母島地先のサンゴ礁海域において潜水調査を行い、十脚目甲殻類の採集を行った。その結果、サンゴガニ類やキモガニ類をはじめとする造礁サンゴに関わりの深い十脚目甲殻類を採集するとともに、生息時の色彩を可能な限り残して撮影を行うことができた。これらの標本については、持ち帰って精査し、分類学的な検討を行っているところである。また、小笠原諸島父島の河川においてオガサワラヌマエビの分布調査を行い、父島の西側の海岸に流入している一河川では本種は源流域には分布せず、流量の安定している中流から上流域に分布していることが確認された。
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