海洋島の小笠原諸島では近年その陸水域において十脚目甲殻類などの分類群で固有種が相次いで発見されている。そのうちオガサワラヌマエビやオガサワラモクズガニは絶滅のおそれがある生物種としてレッドリストに掲載されたが、これらの種を保全するうえで重要な初期生活史がまだ未解明であった。また、サンゴ礁海域は世界各地で白化現象により危機的な状況にあると考えられたが、小笠原諸島のサンゴ礁海域における十脚目甲殻類の調査は不十分な状況であった。そこで、本研究では、小笠原諸島の陸水域やサンゴ礁海域などで十脚目甲殻類を対象とした調査を行い、固有種の発見に努め、絶滅危惧種や隔離分布種などを含めた十脚目甲殻類のインベントリを作成し、併せて絶滅危惧種の初期生活史を解明し、今後の保全施策に資することを目的としていた。小笠原諸島の海域では、平成22年度に引き続き母島地先のサンゴ礁海域において十脚目甲殻類の分布調査を行った。その結果、サンゴガニ類やカクレエビ類などの十脚目甲殻類を採集するとともに、生息時の色彩を可能な限り残して撮影を行うことができた。これらの標本については、持ち帰って精査し、分類学的な検討を行い種のリストを作成したが、一部の種で原記載と形態が合わないことが判明しているので再検討を行っている。また、小笠原諸島陸水域より持ち帰った固有種オガサワラヌマエビについては安定して飼育することが可能になり、生活史の初期において全く採餌しないこと、塩分濃度が低いと直ちに着底するが塩分濃度が高くなるにつれ浮遊生活を行う幼生の比率が高くなることなどが確認された。
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