本研究の目的は、アメリカ合衆国の歴史系博物館において、奴隷制の展示・教育プログラムの開発、運営方法などを巡って展開される攻防や、その攻防から奴隷制の記憶が構築される過程に注目し、記憶の政治性や複雑な諸相を明らかにすることである。その際に、博物館の発展を歴史的な文脈で捉えると共に、奴隷制の学術的な研究が展示・教育プログラムなどに及ぼしている影響や、多文化主義と歴史系博物館の関係も検討する。具体的な研究課題は、1)黒人が主導して20世紀後半に建てられた博物館(黒人歴史博物館)、2)伝統的に白人が運営してきた博物館(白人歴史博物館)、3)国家の立場を代弁する博物館(国立博物館)の中から代表的な博物館をそれぞれ抽出し、博物館の設立過程、奴隷制の展示・教育プログラムの開発の経緯や具体的な内容、運営方法など、様々なレベルで展開される政治的な攻防を公的記憶が構築される過程と捉え、その複雑な様相を明らかにすることである。21年度は本研究の1年目にあたることから、歴史系博物館・奴隷制・記憶に関する基本文献を収集・精読し、研究動向の整理・分析をした。その成果の一部として、国立黒人歴史文化博物館法案の成立過程を追った論文を執筆し、出版に至った。8月にはチャールズ・H・ライト黒人歴史博物館(ミシガン州デトロイト)を訪問し、展示や教育プログラムなどを視察すると共に、博物館内の資料室で同博物館の設立や運営関連の資料を収集した。ライト博物館を他のマイノリティ博物館と比較する参照例として、カリフォルニア黒人博物館と全米日系博物館(カリフォルニア州ロサンゼルス)も視察した。訪問調査後は、持ち帰った資料やインタビューの内容を整理・分析すると共に、基本文献の講読も進めた。また、来年度訪問予定であるコロニアル・ウィリアムズバーグと国立黒人歴史文化博物館準備事務局に関する基礎情報の収集も開始した。
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