本研究の目的は、アメリカ合衆国の歴史系博物館において、奴隷制の展示・教育プログラムの開発、運営方法などを巡って展開される攻防や、その攻防から奴隷制の記憶が構築される過程に注目し、記憶構築における政治性や記憶の複雑な諸相を明らかにすることである。その際に、博物館の発展を歴史的な文脈で捉えると共に、奴隷制の学術的な研究が展示・教育プログラムなどに及ぼしている影響や、多文化主義と歴史系博物館の関係も検討する。具体的な研究課題は、1)黒人が主導して20世紀後半に建てられた博物館(黒人歴史博物館)、2)伝統的に白人が運営してきた博物館、3)国家の立場を代弁する博物館(国立博物館)の中から代表的な博物館をそれぞれ抽出し、博物館の設立過程、奴隷制の展示・教育プログラムの開発の経緯や具体的な内容、運営方法など、様々なレベルで展開される政治的な攻防を公的記憶が構築される過程と捉え、その複雑な様相を明らかにすることである。 22年度は本研究の2年目にあたり、研究課題に関連した基本文献及び昨年度収集した資料の精読を進め、その成果の一部として、国立黒人歴史文化博物館の設立法案の成立過程を考察した論文の出版に至った。9月にはスミソニアン博物館、ハーパーズ・フェリー国立公園、コロニアル・ウィリアムズバーグ野外博物館において視察調査と資料収集を行った。設立の背景や展示の意図などについて、それぞれの関係者へのインタビューをすることもできた。ハーパーズ・フェリー国立公園は当初の計画には入っていなかったが、国立公園における奴隷制の展示や表象の研究に重要であると判断し、研究対象に加えた。国立議会図書館、国立公文書館、ミシガン大学でも博物館研究全般に関する資料の収集を行った。年度の後半は、収集した資料の精読と分析を行った。
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