本研究は、アメリカ合衆国の歴史系博物館において、奴隷制の展示・教育プログラムの開発、運営方法などを巡って展開される攻防や、その攻防から奴隷制の記憶が構築される過程に注目し、記憶構築における政治性や記憶の複雑な諸相を明らかにしようとするものである。具体的には、1)国家の立場を代弁する博物館(国立博物館)、2)伝統的に白人が運営してきた博物館、3)黒人が主導して20世紀後半に建てられた博物館(黒人歴史博物館)の中から、代表的な博物館をそれぞれ抽出し、博物館の設立過程、奴隷制の展示・教育プログラムの開発の経緯や具体的な内容、運営方法など、様々なレベルで展開される政治的な攻防を公的記憶が構築される過程と捉え、その複雑な様相の検討を目指すものである。 本年度は研究の最終年度にであったが、昨年度から調査しているハーパーズ・フェリー国立歴史公園におけるジョン・ブラウン関連の展示についての論考にまとめた(現在は印刷の段階)。その考察を通じて、1859年の連邦兵器工場襲撃事件で犠牲者となった自由黒人を巡る解釈や表象が、奴隷制や奴隷制廃止運動についての学術研究やアメリカ社会の解釈と密接に関係しながら歴史的に変遷してきたこと、そのような変遷を現在の歴史展示で提示することの難しさを明らかにした。9月には、米国議会図書館、ハーパーズ・フェリー国立歴史公園、ミシガン大学で補足の調査を行った。帰国後、資料の整理と分析を進める共に、総括の作業に入った。
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